作詞:不詳
作曲:安村検校
一歌:久方の雲の袖、ふりし昔に偲ばし、花に残る露よりも、消えぬ身ぞ儚き
二歌:夜を照らす白玉の、数の光ならずば、天つ乙女の挿頭して、月に遊ぶなるらん
三歌:紅の花の上、露の色も常ならん、夢は残る横雲、降るは袖の涙かな
四歌:懐かしや古えを、偲ぶに匂う我袖、濡れて干す小簾の外に、哀れ馴れしくらつばめ
五歌:類なき花の色に、心移すこの君、現なき思いこそ、いとどなお深見草
六歌:散りやすき慣らいとは、よそにのみ聞きし身も、移ろうは我咎、恨むまじや春風
私の所属する会の職格試験は2つしかなくて、まずは「師匠」。
これに受かって、あるいは申請してそれが承認されることによって「師匠」職格が許され、まあ・・・やっと入り口に立った感じになる。
これで会員になって、各種の演奏会に出る資格をいただけるというわけ。
伝承者としての一歩を踏み出せる、っちゅうわけやね。
そのつぎに「準師範」職格があって、これも試験に合格するか申請することで認められる。
あとは名誉職みたいなもん(と私は思っている。資格ではなく本人の技量はそれ以上でもそれ以下でもないから)。
なんか、準師範免許から10年で「師範」職格を許されるらしい、がよく知らない。
「大師範」になると、このギョーカイへの貢献著しい人、って感じらしい。
要するに、自分でなんとかできるのは「準師範」までってこと・・・いや、師匠なくしてはどうにもならんことですが。
その準師範の試験曲に必ず入ると言われているのが、
この「飛燕の曲」。
六つの部分から構成されていて、それぞれを一~六歌と呼ぶ。
試験はこのうちの1つの部分が出る。
それは当日本番までどこかは分からない。
他の試験曲も、当日までは筝なのか三絃なのか、どのどの曲のどの部分なのかは一応、分からないということになっている。
経験値からの予想は可能。
こういう試験のときくらいしか我々ひよっこは組歌に触れる機会はない。
でも、組歌が近世箏曲の初期における一里塚というか、しるべ石というか、マイルストーンというか・・・とにかく、歴史的にも音楽的にも重要なのです。
同じ13絃の、やや構造はちがってもほぼ大きさは変わらない楽筝(雅楽の管絃における糸ものとしての筝)と近世箏曲、
いわゆる俗筝の歴史はほとんど断絶しているけれども、
俗筝の曲のなかで、
楽箏の奏法の匂いが中世の寺院音楽を通してかすかに感じることができる数少ない曲がこの組歌と総称される数曲だと思う。
師匠試験で絶対に出題される組歌「菜蕗」は別名を「越殿楽」と言い、以後作曲された組歌はこの曲にほぼ倣った拍数で作曲されている。
本当にお互いによく似ていると思ったし、
でも安易にコピーするのではなく、
それぞれの音楽の個性もばっちり表現されていて、
長く伝えられる曲の大事な部分をみたような心持ちだった。
実は今日、仕事中に師匠から電話があった。
何の急用かと思ったら、
飛燕の曲の五歌の4行目の奏法の確認だった・・・私の試験のときはどうやって習ったかという。
組歌のなかではこの「飛燕の曲」は好き。
退廃的な匂いがぷんぷんするの。
近世っぽいやんか。